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天使の鎮魂歌

8話 糸

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美形×平凡, サブかぷ弟×兄, 訳ありそうな攻め, いじめられっ子受け

地雷要素

虐待 弟×兄

入院中、零は何度も同じことを聞かれた。
“けがの原因”である。
そのたびに零は同じように答え続けた。
「弟と玄関でふざけていたら、足を滑らせました。」
その言葉を聞いた看護師は、一瞬だけ、目を伏せると、もう一度零に向き直り、口を開く。
「…。れいさん…、あのね」
「本当です。」心配げな顔で問いかけてくる看護師に、零は何度となく同じ説明をする。偽りなく、何度でも。
ここは診察室、医師も神妙な面持ちで零のことを静かに見つめている。
「そう…、零君は、そのけがは自分の不注意であると、言うんだね。」
「…はい。」
医師の質問に答える。目の前の人物の顔なんて見られないし、絶対に顔は上げない。けれど零はそう主張し続けるのだ。
「うーん…。でもね、零君。病院には義務があるんだ。君みたいな子がいる場合は、児童相談所に通報を入れる義務がね。それに、君はあと1週間すれば、ここを退院になる。またお家に帰ることになるんだ。私たちはね、仕事だからだけではなくて、君が本当に心配なのさ。」
医師の優しい話声が、室内に響く。それでも、零は考えを変える気はなかった。頑なに、二人の顔は見ない。そんな風な零の様子を見て、医師が一つ、深くため息をつく。
「そうだね…。わかったよ。今日は、とりあえず診察は終わり。もう大丈夫だろうけれど、一応たかぎさんについてもらって、病室に戻りなさいね。」
その言葉を聞いた看護師は、零の肩を軽く撫で、声をかける。
「いきましょうか、れいさん。」
「…。はい。」
実のところ、零はこの二人が苦手だ。底抜けに優しくされるからこそ、自分の不甲斐なさが浮き彫りになっているようだった。少し後ろからついてくる看護師の気配を感じながら振り向くことは無く病室へたどり着く。
「では、れいさん、私はこれで。退院まで少しですから、ゆっくり休んで元気になって帰りましょうね。」
「・・・はい。」
小さく返事を返して病室に入る。お見舞いなんか来ない病室にはお菓子も花もない。殺風景なものである。ベッドに倒れこみ、窓の外を眺める。
「はじめ…。」
零があの日、家へと帰る前、さみしいと泣いていた一は今何をしているのだろう。

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