天使の鎮魂歌
7話 存在 意義?
いじめられっ子の零は、自殺をするため、使われていない廃墟ビルの屋上にいる。
死を前にして怖くなった零がであったのは、一人の男。
その男も、どこか不思議な雰囲気で…。
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地雷要素
次に零が目を覚ましたのは、玄関のタイルでも、薄暗い薄汚れた布団の上でもなかった。清潔な部屋。視界の端に点滴が見える。
「こ、ここ…は…。」
知らない場所。見覚えのない場所。きょろきょろと周りを見回していると、床頭台に紙が張り付けてある。
“ここは○○病院です、目が覚めたら、お手元のナースコールを押してお呼びください。”
手を握れば、棒状のスイッチが右手に収まっている。零は少し迷ったが、押せと書かれているので押すようにした。
一つだけ間を置き、すぐに看護師がでて枕元から返事が来る。
「すぐ伺います、そのままお待ちくださいね。」
「…ぁ。」かすれた声で、返事をしようとするがそれよりも先に枕元からガチャリと音がする。
それから少し間を置き、看護師がやってくる。若くて優し気な女性。
「おはようございます、頭はいたくないですか?」
にこりと優し気に微笑み声をかけられる。零の方はというと、緊張とのどの渇きで上手く声が出ずに、結局先ほどのように「・・・ぁ。」としか声が出なかった。
「ここは、○○病院です。貴方は、弟さんから通報があって、救急車でここまで来ました。覚えていますか?うなずくだけで良いですよ~。」
零は一つ、うなずく。
「あ、どうぞ。これ、少し
温めたお茶。飲めるかな?飲めたら、飲んでね。ゆっくりだよ。」
看護師がお茶を手渡したあと、ベッドを起こす。差し出された吸い飲みはほんのり暖かく、零は両手で包み込むように持ってお茶を飲み込む。
「ごほっ!ごほっ!けほっ!」
「あら…、大変…!大丈夫?」
ぽんぽんと看護師が胸を叩く。しっかりとした振動を胸に感じながら落ち着くまで、零はせき込んだ。そうして、落ち着いたころにもう一口。今度はせき込まずに、うまく飲み込める。
「うん。落ち着きましたね。あ、先生。」
そうしてゆっくりしていると、白衣の女性がやってくる。黒髪で小柄だが、芯のありそうな顔つきをしている。
「おはよう。れいくん。気分はどう?」
白衣の女性はゆっくりと零の顔をみて話しながら、カーテンを閉める。
「私はね。貴方の担当医のしらきっていいます。退院まで、よろしくね?」
にこりと微笑みながら女性は零に向かって言う。それから壁際から椅子を二つ取り、ベッドから少しだけ、離れた位置に腰を下ろす。
「たかぎさんも。…れいくん、彼女は、あなたの担当看護師。たかぎさん。」
「よろしくお願いします。れいさん。」
「・・・ぁ、よろしく・・・お願いします・・・。」そういって、零はぺこりと頭を下げる。
「うん。よろしくね。」零に頭を下げられた二人はそろって優し気に微笑む。
「れいくん。おなかの調子はどう?お昼ご飯がそろそろ配られるんだけど、食べられそう?」
医師にそう聞かれ、零はお腹を意識した。
くぅ~…。
「ぁ…。」
「ふふ。うん、食べられそうだね。」
「では先生。私、持ってきますね。」
「うん。お願いね。」
看護師が部屋を出ていけば、医師は改めて例に向き直る。
「れいくん、今日が何年かわかる?」
「え…と。2023年です。」
「うん。そう。じゃあ、貴方のフルネームを教えてくれる?」
「葛城零・・・です。」
「うんうん。おっけー。れいくんはさ、動物は何が好き?お姉さんに教えて。」
おずおずと返答する零に、医師はそう言って零を見つめにっこり微笑む。
「私はね、ウサギが好きなの。かわいいじゃない?寂しくて死ぬ動物、何て言われているのもかわいいわよね。知ってる?ウサギって、怒ると後ろ脚でだんって勢いよく床をけるのよ。かわいいでしょ?」
「え…っと。そう、なんですか。」
「そうなの。れいくんも、教えてほしいな。」
にこにこ、医師は零を見つめる。零は見つめられてたじろぎながら考える。
「えっと…。…ん。…かめさん。かな。」
「かめ?」
「あ、えと。ごめんなさい、やっぱり違くて。」
慌てて否定する零に、医師はにっこり笑って続ける。
「いいわよね!亀さん!野菜を食べてる動画なんか、とっても美味しそうに見えるもの。私も好きよ。」
「あ、えと・・・。うん。…そう。」
「れいくんが亀さんの好きなところ、教えて?」
「えっと。ゆっくりしてるイメージで、頑張ってるみたいで、あの、甲羅にこもれば、勝っちゃうし…。」
「うんうん。そっかぁ。そこもいいところだよね。」
話していると、がらりと病室の扉が開く。
「先生。持ってきました。れいさん、卵おかゆだけど、食べれる?」
やってきた看護師の手元を見れば、お盆の上にお椀と平皿、コップが置かれている。
「えっと…。」
手元にひき出されたテーブルにお盆が置かれる。中には確かに、卵がゆがある。平皿には煮魚と野菜。そしてコップにはお茶。目の前に出されたそれらに、零は困惑する。
「どうぞ。食べていいのよ。」
隣でにこやかに医師がそう告げる。
おずおずと箸を持ち、“食事”を口に入れる。
「おいしい…。」