天使の鎮魂歌
4話 違算
いじめられっ子の零は、自殺をするため、使われていない廃墟ビルの屋上にいる。
死を前にして怖くなった零がであったのは、一人の男。
その男も、どこか不思議な雰囲気で…。
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地雷要素
虐待 親近相姦 いじめ 横恋慕
零は疲れた体で布団に横になった。終わってすぐにシャワーを浴びたにもかかわらず自分の体はひどく汚れ切っている気がした。この感覚もだいぶ前から常にあるもので、零の精神を蝕んでいる。小窓からの月明かりもなくすっかり暗くなった室内で、眠ることもできずに天井を見上げる。結局、彼は自分の天使様ではなかった。弟の、はじめのものだったのだ。はじめは自分なんかよりもずっと容貌も整っている。夢を見せてもらったあの一晩は違算だったのだ。
結局、零が寝たのは空がすこし白んできたころだった。数十分程しか寝ていない零はそれでも準備をして学校に向かう。どこにいても変わらないのだから、せめて自分の意志だけでも人間のように生きたかった。
家を出ると、門柱から飛び出た金髪の後ろ姿が見える。それは昨日の男のものだった。振り向くとにこりと笑い「おはよう、ゼロ君。」と声を掛けられる。零は、あ、と思う。名前はゼロではなくレイだ。はじめに聞いたかもしれないが間違えている。ということは覚えるに値しない。そう思われているのかもしれない。そう零が考えていると、こつこつと音をたてて男が寄ってくる。音が気になり足元を見るときれいな靴を履いているのが見える。
「知ってるかもしれないけど、僕はカナタ。カナカナでも、好きな呼び方で呼んで!」
「今から学校に行くのかな?途中までついて行っていい?放課後は僕と待ち合わせをしよう。」
零が歩きだしたにも関わらず、一方的にしゃべりながらついてくる。その姿に幼少期の周囲を思い出す。あの頃はまだ自分を通して一と仲良くなろうとする人物が多かった。ちょうど、このような感じだったのだ。カナタは知らないのだろう。今の自分にはそんな魅力はないのだ。
学校が近くなってきたころ、無視をし続ける零に対して、カナタは話し続ける。天気の話だったり、音楽の話だったり。カナタはとても楽しそうに話すが、零にとっては話題の統一性はないように思えた。
「あの、僕に話しかけるより、直接はじめに話しかけたほうがいいですよ。」
そう言うと、カナタはきょとんとした顔をする。
「どうして一君が出てくるの?」
「どうしてって…はじめと仲良くなりたいんですよね。」
零がそう言うと、カナタはにっこりと笑う。
「一君は気持ちいいことさせてくれないから興味ない。」とカナタはきれいに笑いながら話す。
「え…。」
零は戸惑う。気持ちいいこと。というのはおそらく先日零とカナタがしたことだ。それをしてくれないから興味がない。カナタはそんな風に人を区別しているのか。最悪な行為であるが、少しだけ違和感が零の胸にこもる。
「今日、放課後僕の家においでよ。気持ちいいことをしよう。僕が君の天使様になってあげる。」
そう言って礼を見つめる目からは何も感情を感じられない。その目でにこりと笑っている。異様さを感じるよりも零は天使様。という言葉に胸を躍らせた。彼がずっと欲しかったものになってくれるというのだ。
「放課後…家に行けばいいんですか?」
「うん。待ってるね。」そう言うと、じゃあまたね。と手を振りながらどこかへと去っていく。
その場にはぼんやりとした零だけが残った。
夕暮れ時、零はカナタの家まで来ていた。部屋番号は確か・・・。と朧げな記憶を頼りにインターホンを押すと「はーい。」と軽い口調で知った声が答える。
「あ、れ、…ゼロです。」
「あー!ゼロくん?ちょっと待ってね!今開ける!」
その声と同時にかちゃり。と音がする。「入ってきて!階数とかわかるよね。待ってるねー!」と話し声が聞こえ途切れる。エントランスの男にじろじろと見つめられながら、軽くお辞儀を返し通り過ぎる。エレベーターに乗るまで、男はじろじろと零を見ているようだった。
二度目に入った部屋は、やはり生活感がなく必要最低限しかないように感じる。ベッドだけはやたらと広く、複雑にいろいろな思いが浮かぶ。
「わー久しぶりのゼロ君だぁ、大事にするよぉ。」とカナタはゆっくりとした動作で玄関に立つ零をゆるく抱きしめる。そのまま腰を抱きベッドまでエスコート。ゆっくりと零をベッドに倒す。
大切に扱われているその感覚は零の頭をぼんやりとさせる。
「てんしさま…。」
「ふふ、おかしなの。僕は天使なんかじゃないよ。」
君を食べちゃう悪魔かも。そう言って笑ったカナタは零の服に手を滑らせ鎖骨に接吻跡を残す。
「いただきます。」そういってカナタは零の顔を見つめうっそりと笑った。