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天使の鎮魂歌

2話 家族

いじめられっ子の零は、自殺をするため、使われていない廃墟ビルの屋上にいる。
死を前にして怖くなった零がであったのは、一人の男。

その男も、どこか不思議な雰囲気で…。

​ジャンルタグ

美形×平凡, 訳ありそうな攻め, いじめられっ子受け, サブかぷ弟×兄

地雷要素

虐待 親近相姦 いじめ 横恋慕 

早朝、自宅に戻ると、玄関の電灯も点いておらず中は静まり返っている。なるべく誰にも気づかれないように、静かに家に入る。
かちゃり…。
そうドアが閉まる音が響くと、二階の部屋から、がちゃっ、とドアの音がして足音が階段を降りてくる。
「兄ちゃん。昨日はどこに行ってたの?心配したんだよ?何度もメッセージも送ったのに。」
そう猫なで声で悲し気な顔をする弟、一(はじめ)が零へ話しかけてくる。
「あ…は、はじめ…ご、ごめんね。ちょっと、し、知り合い…の、人、の、家に、とまったから…。め、メッセージは気づかなくて…。」
そう俯きがちにはじめへ返答する。その言葉を聞いて、「へぇ、気づかなかった…。ねぇ…。」と少し低い声ではじめが返答する。はじめは細めた瞳で零を見つめ考える、この男は嘘がへたくそだ。嘘をつくとすぐにわかるだろう。はじめは踵を返すと静かにリビングルームに向かって行く。
「・・・。」
それを見届けた零は慌てて靴を脱ぐと、はじめの後は追わずに自室に戻った。
零の自室は部屋とも呼べない、物置のような部屋だ。昔は隣の部屋をはじめと兼用で使っていたが、はじめが「一人部屋が良い。」と言い出したために、零は半ば強引に隣の物置に押し込まれた。
物置だから小窓で、空気も少しじめじめしている。明かりも薄暗い。だが、零は家の中ではこの部屋にいる時間が唯一安心して過ごせるのだ。布団と小さなテーブルのみで、それでも少し狭く感じる部屋であったが。
せっかく帰ってきたから、一度シャワーを浴びたいと零は考えていたがそうはいかないようだ。今から布団にもぐるわけにもいかないので、小さなライトをつけて、お気に入りの絵本を読む。報われない少年と飼い犬が、最後は天使たちによって穏やかな表情で天国に連れて行ってもらうお話。一人と一匹は、とても安らいだ顔で天使様に導いてもらうのだ。
(僕にもいつか、そんな人が現れるのだろうか。)
零は漠然とそう思いながらページをペラペラとめくっていく。途中、ページが破れないように気を使いながら。
どん、どん。
そうしていると、突然扉がノックされた。
「れい、いるんでしょ?開けてよ。」
聞こえてきたのははじめの声。猫なで声で零のことを読んでいる。こういう時のはじめは従わなければ面倒くさいことになる。そうわかっている零は絵本を布団の下に隠してから、扉の鍵を開けて少しだけドアを開けてのぞき込む。
「な、なに?はじめ。」
実をいうと、零はこの声を出すはじめが苦手であった。この時のはじめに見つめられると、ぞわぞわと総毛立つのだ。
「ううん、特に用事という用事はなかったんだけど。入れてくれる?」
と、そうはじめは声音をそのままににこやかに告げると同時に部屋のドアをこじ開けるようにして部屋に入ってくる。
がちゃり。
はじめの後ろで扉が閉まる音がすると、零はああ、結局こうなるのか。とあきらめるように目をつぶった。次の瞬間には強い衝撃が来る。
「ああ、ああ、ああ!もう、なんで僕の言うことを聞かないかなぁ、おまえは、おまえは。ああ、ああ、僕が用意した人間とだけ寝ればいいのに。今回が初めてだから、少しで許してあげる。でも、もう次はないからな!」
零はとっさに背中を向けて丸くなる。少しでも体にダメージが来ないように。何度も来る衝撃に耐えながらしばらくそうしてうずくまる。そうして耐えていると、今度は零の背中にぬくもりが来るのだ。それが、終わりの合図。
「ああ、ごめんなさい、兄ちゃん。愛してる。兄ちゃん。」
はじめはそういって今度はほんとにつらそうに泣く。ごめんなさい、愛してる。と、何度も。その状態になれば、もう痛いことは無い。だから零も前を向き抱きしめ返し、こう言うのだ。
「は、はじめ、はじめ、きき、気にしないで。ぼ…、僕も、か…かか、家族として、はじめのこと………、愛しているからね。」
こころから、そう言うのだ。
少し、体に巻き付く腕に力がこもった事を感じながら零はしばらく抱き合っていた。

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