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天使の鎮魂歌

1話

いじめられっ子の零は、自殺をするため、使われていない廃墟ビルの屋上にいる。
死を前にして怖くなった零がであったのは、一人の男。

その男も、どこか不思議な雰囲気で…。

​ジャンルタグ

美形×平凡, 訳ありそうな攻め, いじめられっ子受け, サブかぷ弟×兄

地雷要素

虐待 親近相姦 いじめ 横恋慕 

 零は何が悪かったのか、何度も何度も自問自答を繰り返した、本当は理由なんて分かりきっている。初めからすべてが悪かった。零が零として生まれてきた瞬間にこうなることは決まっていたのかもしれない。 毎日毎日、学校では人並みの扱いをされず。ごみのように扱われた。クラスメイトと眼が合えば「きもい。」と殴られ、零の物はどこに置いていようがなくなる。
家にいたとしても、似たようなものだ。家事は、料理以外は全て零がする、だけどご飯は与えられない。一日一回、深夜に自分で静かにご飯を作って食べる。そんなサイクルをいつも繰り返していて、栄養など足りていないから躰なんてガリガリで、日々の暴力に最近ではめまいがしている。動機もひどい。このままでは零は本当に死んでしまうような気さえした。あんな奴らに、殺されてしまうのか。そう考えたら頭がきしむような嫌悪を感じた。
いっそのこと死ぬなら、せめて自分の意志で消えたい。
そう思う自分は、それこそ異常なのかもしれない。しかし、そうすることしか零が救われる方法はないのだ 。
零は廃墟ビルの屋上にいた。10階建てで都心に大きくそびえたっている。こんなにでかいビルがどうしてこんな都会で廃墟になっているのかは知らない、けれど街では不穏なうわさが絶えない。だからこそ、零には都合が良い場所でもあった。外から中を見えないように覆い隠そうと広がった現場シートも。ここにたむろしていると噂のヤンキーも。邪魔が入らない恰好のシチュエーションを作り出してくれる。幸い。誰にも会わなかったし、誰にも見られずここにきた。
今なら確実に死ぬことを邪魔する人間はいない。
ビルの屋上のへりに立ち下を眺める。やはり、覚悟していたとは言え、死ぬことは怖いことで。零は死の直前に怖くなって床にしゃがみこんだ。やっと解放されるのに。足が思うように動かず、そうしてうずくまっていると、
ふいに聞こえる足音に零は驚き冷汗が伝う。しまった。本当にヤンキーのたまり場だったんだろうか。そう思いながら零はうろたえ隠れる場所をきょろきょろと目だけで探した、どんどん声は近づいてくる。隠れなければ。そうは思えど、零の足は恐怖で床に縫い付けられ動いてくれない。辺りを見渡しても、隠れる場所は中への入り口となる建物の裏側しかなく、慌てて近寄ろうものなら、足音で誰かがいることはすぐにわかるだろう。
そうこう悩んで居ると、静かに扉が開いた。
「あれ?きみは?どうしてここに?」
扉から現れたのは、優しい雰囲気の青年だった。零に話しかけながら、足音も立てずに静かに歩みよってくる。しかし零はどことなく恐怖心を覚えた。
「あ、あの、ご、ご、ごめんなさい。は、早めにここから出ていきます。」
男が零を睨んでいるわけでも、暴言を浴びせたわけでもないにも関わらず、自然と零の口からは謝罪の言葉が出る。その言葉に男は目を細めて笑い、零の腕を力強く掴んだ。
「ここは僕の大事なところなんだ。暇つぶしにぴったりな。」
と話した男は、君のせいで、今日の僕は退屈になっちゃったよ。と小さく小さく独り言のようにつぶやいた。零には届かずに消えた言葉だがより一層、零は不安に駆られた。もしかしたら、殴られるかもしれない。とすら考えた。しかし、零のその考えとは裏腹に、「今日、これから暇かな?」と男は先ほどの雰囲気はすっきりなくし爽やかに零へ笑いかけた。
「こ、ここ、これから?」
零は男の豹変に驚きながら、やっとの思いで言葉を発した。零には確かに特段この後何かをする予定はなかった、本来ならば、今ここに居る予定ですらなかった。死ぬつもりだったのだから。しかし、この後しなければならないことはたくさんある。そう考えていると、男の零の腕を掴む力がだんだんと強くなってくる。まるで断ることを許さないといわんばかりのその力に零は怖気づき、「は、はい。なな、ないです。」と返事を返す。その返事に男はまた爽やかな笑みを浮かべると「そう、ならこの後一緒に来てよ。」と零へ話し、掴んだ腕はそのままに出口へと歩き始める。
 歩き始めた男に連れられて、零はぐるぐると頭の中をめぐる考えを整理していた。もしかしたら、この青年はほんとに遊ぶ人を探していただけだったんだ。やら、でももしついて行った先でリンチにあったらどうしよう。やら、能天気な考えや恐ろしい考えが交互にあふれ出てやがて零の思考回路はフリーズしてしまう。思考がフリーズしても引っ張られたたらを踏みながらも男について行く零は、はたから見てもどこかぼんやりとしている。その様子を男はちらりと見てまた視線は前方へ戻した。
「そういえば、君は、あそこで何をしていたの。」
男はレイに言葉が届かないと知りながらも、ぽつりと言葉を漏らした。案の定、ぼんやりとしている少年へとその言葉が届くことは無い様ではあったが、男は再び聞こうとは思わなかった。
 いまだに零はぼんやりとしていて、自分が今どこにいるか気づいていなかった。高層マンションのエントランスに立った男は暗唱番号を入力しすんなりと中に入る。エントランスには管理人がカウンターに座っており、男に声をかける。
「あ?カナタ、今日は変なんツレてるなぁ。今日はそいつかい。というか、めずらしな、ここに連れてくるなんて。」と、独特な訛りで管理人は話す。聞いたことのない声質に驚いた零は、フリーズした脳を回転させ、声のほうへ視線を向ける。
「うん、今日はこの子、急遽ね。でも、どことなく愛嬌あるでしょ。」と話すカナタは零の顎を掴むと管理人へ顔を向ける。
「うーん。お前の愛嬌はよくわかんねえなあ。がりがりやし、かわいさもないし。こんなちんちくりんよか、美女と遊んだほうが良いんじゃないか?」
管理人は零をしげしげと眺めながらそうカナタへ話す。それを聞いた零は、自分が好き好んでこの意味も分からない恐怖に身を置いているわけではないのに目の前の男には小ばかにされた様な気がして頭に血が上る。顔を向けられたことによって見ることのできた管理人の顔が想像とは違い好青年風の優し気な表情であったことも相まって、つい零の口からは乱暴な言葉が飛び出す。
「う、うう、うるさいなぁ!だだ、だまってよ!ぼぼ、ぼ、僕は勝手に連れてこられたんだ!文句があるなら、ぼぼ、僕をおうちに帰してよ、帰ってしないといけないことが、たた、たくさんあるんだから!!」
そう叫ぶと零は自分が情けなくなった。こんな風に理不尽な場に置かれてもドモリ癖は消えない。恥ずかしくなった零は、視線だけでも、とうつむくと頭上でクスクスと笑い声が聞こえた。その声に情けない気持ちがこみ上げるが、こんな奴の前で泣くものかとぐっとこらえる。すると、ぬくもりが頭に触れる。
「あー。ごめんて。ちょっとした軽口のつもりやったんよ。」
温もりは妙な訛り男の物だったようで、困りきった声で諭そうとしているのが零に伝わった。しかし、それでさえ今の零にとっては腹立たしく感じ、頭がぐらぐらと揺れるように感じていた。いつの間にか頭のぬくもりは消え、代わりに強く掴まれた腕が引っ張られエレベーターへ乗り込み、そのまま止まった階層で部屋に入る。いきなり強く引っ張られていた勢いが止まったことでバランスを崩した零は転んでひざを擦りむいた。
「さぁ、遊ぼうか。」
転んだ痛みと理不尽な行動にうずくまる零へカナタは優しく声をかける。あまりにも優しい声音とその姿が蛍光灯に照らされ金髪が透き通るように輝く。その姿をみて零は昔見た童話を思い出した。あまりにも残酷な現実に身を置かれた少年の前に現れた天使のようだ。
「てんしさま・・・。」
そうつぶやき、零はカナタをうるんだ瞳で見つめた。カナタはそんな様子の零を不思議そうに見つめ返す。その姿が零にとっては慈愛に満ちた姿に見え、ますますその姿に見入る。
「てんしさま、僕をてんごくに連れていって。」
その言葉を聞いた男は、にこり。微笑んだ。


零は、早朝の光で目が覚めた。マンションの高層にある部屋らしく、カーテンは開いており、外の景色は上から見下ろすようになっている。
「高い…。」 そう呟いて零はふと、自分の予定を思い出した。昨日は男に邪魔されたが、ここから落ちれば間違いなく即死だ。少しは苦しむことになるだろうが、確実に死ねることは間違いない。
零は後ろを振り返り、男の様子を伺った。改めて、カナタの顔を眺めて、静かに寝息を立てている様子を観察する。近くには、数枚のお札、それはいつも零がもらうお金の何倍何十倍もの値段だった。 「おかね…!」 慌てて無造作に置かれたそれを拾い上げ数を数える。その額に驚きが隠せない。確かに昨晩、これは自分のものになった。だから、もらっても良いはずだ。しかし、やはり零はまだ信じられずにいた。自分の価値を、酷く下に見ていた零にとってこれは自分がもらうべきものではない気がした。それに、今からここを飛び降りるのだ。そもそも、持っていても意味がない。お札を掴む手を下ろし、机の上に再度戻すともう一度男の顔を見る。
(なんだか、申し訳ない気もする。僕が死んだあと、きっと彼は少しめんどくさいことになる。だったら、遺書を書いておいたほうが良いのかもしれない。)
零は申し訳なく感じながらも、紙とペンを探した。しかし、一つも見当たらない。こうなってくると、本当にここから飛び降りることはできない。少し落胆して、けれど身震いをしてくしゅんっ!!とひとつ、くしゃみが出た。
室内は適温に保たれており気づかなかったが、よくよく見ると自分は裸だった。そうだ、昨日は後処理さえせずに気絶したのだと、思い出した零は自分の体がきれいなことに気づく。後処理をしてあるという事実に驚く。何度かお金のために寝たことはあったが今までの男にそんな人種はいなかったのだ。
カナタの顔を改めて見つめながら昨晩の行為を思い出す。彼は今まで出会ってきた人間の中では信じられないほどやさしく、抱いてくれた。その姿はやはり、天使様の様だった。
いつまでも此処に居たいとも思うがそうはいかない、足元に脱ぎっぱなしの衣服を着て玄関に置きっぱなしになっている荷物を持つと、テーブルに置きっぱなしになっているお札を数枚だけもらい部屋を出た。いつの間にか電源が切れていた携帯をもう一度付け直す。想像に反し、一通だけ、弟からメッセージが来ていた。

From:はじめ
いい度胸じゃん、覚えてろよ。

そのメッセージを読んだ零は、血の気が引く思いがする。
「帰りたくないな。」
そうは思えど、帰る場所はやはり家しかない。するべきこともたんまり残っているだろう。そう思った零は、トボトボと無人のエントランスを出ると早朝の少し冷たい空気のなかを歩いて帰った。

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