相談役、たけるくん!
平凡君がチワワに守り隊を結成されるだけのお話
王道学園に所属する平凡男子、やすながたけるは、一般生徒たちの相談役をしている。
相談に乗るうえでいろんなひとたちに好かれていく…
そんな短編集。
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地雷要素
これは、猛が2年生に進級して間もないころに行われた新入生歓迎会での思い出である。
さんさんと春の日差しが差し込む体育館のステージ上。新入生歓迎会である催し、隠れ鬼ごっこというものの説明をしている最中。猛にとっては衝撃的で、この学園の在校生であれば至極当然の事実を、生徒会長の口から告げられる。
「昨年、最も学園に服を呼び込む活動に力を入れてくれた生徒は…2年C組、保永猛くんです。今回の催しの福男(隠れ役)は保永猛君に決まりました。皆さん、盛大な拍手で保永猛君を壇上に呼びましょう。」
「え、ぼ、僕?」
「わ!やったじゃないですか!猛君!でも、当たり前のことだとも思いますけどね!」
と、昨年からの同じクラスであり、平凡仲間(だと、猛は考えている。)の陸がらんらんと目を光らせて隣から猛の顔を覗き見る。そうした陸を横目に、呼ばれて拍手もなり続ける会場内、壇上に上がらないわけにもいかず、恐る恐る壇上へと姿を出す。
「たけるくん。おめでとうございます。今のお気持ちは?」
そう言って向けられるマイクに困惑した表情を向けながらも、答える。
「あ、えっと。光栄…だと…思います。」
「うんうん。そうだよね。この企画で逃げ延びれば、君は10万円賞金としてもらえるけれど、意気込みは?」
「えっと、頑張ります。」
そうした軽いやり取りを少し交わしたのち、わかりやすいように蛍光イエローのウィンドブレイカーを着せられる猛。
「これはマークだから、わかりやすいように脱がないでね。」
「わ、わかりました。」
「うんうん。いい返事だ。では、鬼役の新入生諸君は、この色を目印に、たけるくんを探すように。また、一般生徒は紛らわしい格好はしないようにね。見つけ次第、投獄していくからね。」
そう生徒会長は話すと、左手に持ったタイマーを掲げる。
「時間は2時間。たける君には30分早めに隠れ場所を探してもらいます。と、いうことで。たけるくん。隠れておいで。」
よーい、どん。と言って生徒会長は時間を図りだす。
猛はひとまず、壇上を降りて、小首をかしげながら独り言をつぶやく。
「こまった。僕は運動が得意ではないから、きっとすぐにでも捕まるでしょうね…。」
その言葉を聞いた、同じクラスのチワワ軍団が手を挙げて呼びかける
「安心して!猛!」「僕たちに任せて!」「絶対猛を守っちゃうんだから!
「貴方たち…。ありがとうございます。でも、ご無理はなさらないでくださいね。」
チワワ軍団の言葉を聞いた猛はにっこり笑い、そう話すが、チワワ軍団は胸を張り話し続ける。
「ううん!僕たち最強の情報網持ってるんだから!」「僕たちにかかれば、人がいない隠れ場所も。」「人がいない逃げ道も一発で分かるよ!」
「「「そのために!今まで、情報科の勉強を頑張ったんだから!」」」
胸を張り、声を合わせてそう話すチワワ軍団に猛は「ふふ。」と笑う。
「僕らのクラスラインで、情報共有をする予定だから、こまめにチェックしてよね!」
「そうそう!みんなが猛を守りたいっていうから、ちょこっとだけ癪だけど、協力してあげるの!」
「安心して!変な動きしてるやつが居たら、村八分にしてやるんだから!」
「そんなそんな…。そんな過激なことは言わないでください。仲良くしましょう?」
あたふたとそう言ってなだめる猛の声も聞こえていないのか、和気あいあいとクラスで結束を高められ、もはや当人の猛が蚊帳の外である。
「たけるくん、貴重な時間が刻一刻と消えていって居ますよ。」という生徒会長の言葉に、猛は本来の企画を思い出し、普段の彼からは想像つかないほど、あたふたとした様子で館内から退場していく。
はてさて、結果はと言うと。チワワ軍団の助太刀の甲斐あり…と言いたいところですが、結局、猛が裏庭の植物園に生えた巨木に上り、すやすやと眠っていれば見つかることは無く。
賞金にもらった10万円で、空き教室をリメイクし、相談室用に使い始めたとか始めなかったとか…。