相談役、たけるくん!
夢見がちなチワワ君が平凡君に理想を描いてるだけのお話
王道学園に所属する平凡男子、やすながたけるは、一般生徒たちの相談役をしている。
相談に乗るうえでいろんなひとたちに好かれていく…
そんな短編集。
ジャンルタグ
カワイイ系の攻め, 美形×平凡, 王道学園もの
地雷要素
一度も染めたことのない黒髪の、ぴょこんとはねたアホ毛を揺らし、表情を曇らせ夢丹 架(ゆめに かける)は、困っていた。
入学して早3年。持ち前の方向音痴によって引き起こされるこの迷子現象は、当の昔に百回記念は迎えてしまっている。
「ん~困ったなぁ…。また迷子だぁ…。」
方向音痴である架の特徴として、じっとしていない。というものがある。わからないままにやみくもに道を切り開こうとしてしまい、結果、もっとわからない場所まで行ってしまうのだ。
「こまったな…本当にここがどこかわからない…。…。…でも、きっと大丈夫だよね!きっと、もうすぐクラスメートの誰かが迎えに来てくれると思うしっ!そうだ!探してもらうだけなのも悪いから、もうちょっと、僕も道を探してみようかな!」
沿う意気込み、夢には歩を進める。着いた先はもともと彼が居たところの真反対の位置にある階段だ。
当に授業が始まった学園内の特別等(移動教室で使うような教室がまとめて置いてあるような棟のこと。)はがらんどうである。今彼が居る階では授業が行われていないらしく、静寂が彼をすっぽりと包み込んでしまっている。これほどまで静かな階には誰もいないであろうことに気づいた夢丹は、もう一階分、階段を上ろうと足をかける。
「ゆめにくん、見つけましたよ。」
そんな夢丹の腕を後ろから引っ張り、声をかける人物がいた。その声を聴いたとたん、夢丹は瞳を輝かせ、そちらを見て、相手の名を呼ぶ。
「たけるくん!」
夢丹の視線の先には保永猛が困り顔で夢丹を見つめていた。
「ゆめにくん。何度言えば分かるのですか?移動教室の際にはあれだけ誰かと一緒に行けと…。」
そう言われた夢丹は申し訳なさげにしゅんとしてしまう。
「ううん…ごめんなさいい…だって、珍しいちょうちょが居て、追いかけていたら、迷子になっちゃって…。」
「はぁ‥。ゆめにくんのいいところはちゃんと謝れるところですね…。とはいえ、もうしないように気をつけましょうね?」
そういうと、猛は夢丹の手を引く。
「ほら、行きましょう?皆さんゆめにくんを待っていますよ。」
「うん。ごめんねぇ…。」
しゅんとしながらも、おとなしく夢丹は猛の後をついていく。前を歩く黒髪をぼんやりと見つめながら、考える。
彼はいつも、自分を探しに来てくれるのだ。いつだって、王子様のように自分が困っているときには駆けつけてくれる。さながら自分はお姫様にでもなった気分だ。特段、お姫様というものに魅力は感じないが、たけるが相手であるならば、どことなく誇らしい気さえする。
その気持ちが溢れてしまい、一言「たける君は王子様みたいだね?」とつぶやく。
その言葉に、猛は不思議そうに夢丹を見る。一方の見られた夢丹はというと、それ以上何かを言うつもりはないようでにこにこ満面の笑みでこれまた不思議そうに猛を見つめる。
いつも通りの天然さからくる言葉なのか、いつもの言動から意味が分かっているかすら怪しいと感じた猛はそのことがおかしくなった。ふふ。とはにかめば、また、前を向いて歩きだす。
夢丹もそれに続いて、にこにこと歩き出した。