相談役、たけるくん!
平凡君が性悪親衛隊隊長に絡まれるけど、結局助けることになる話
王道学園に所属する平凡男子、やすながたけるは、一般生徒たちの相談役をしている。
相談に乗るうえでいろんなひとたちに好かれていく…
そんな短編集。
ジャンルタグ
地雷要素
夕日が差し込む相談室、ちらほらと生徒が並んでいる列をかき分け、荒い足音が相談室に接近する。
足音に気づいた室内にいる相談中の生徒と、対応中の猛は目を丸くしてドアを見つめる。
がらら!!
「ねぇ!!ほんとに最悪なんだけど!!」
そう言いながら瞳に涙をためて部屋に入ってきたのは生徒会会計さまの親衛隊隊長。渚である。
「ちょっと!そこどいて!!」
渚は足音荒く、二人に近づくと、相談していた生徒を席から押しのけて、どすんと荒々しく座り込む。
「あの、今は彼の相談を受けているからしっかり並んでくれないかな?」
猛はその横暴を見て、少し眉をしかめる。
「いいでしょ!僕は生徒会会計さまの親衛隊隊長なの!その僕がっヒックこんなに泣いてるんだからっ!っック、慰めてよねっ!ヒックうう…っ!」
渚のあまりにもくしゃくしゃな顔を見て、相談していた生徒のほうが気おされた様子でたじろぐ。
「あの、みなさん並んでいますから…ね…?」
渚を見つめながら諭すような表情で話す猛とは反対に、一生徒は慌てた様子でわたわたと話し出す・
「あの、たけるくん。僕は良いので、隊長の話を聞いて上げてください…!普段何があっても生意気な隊長が、こんなに号泣してるのは何かあったんですっ!きっとっ!」
「ですが…。それだと君の相談時間が…。」
「ぼくは、あの、また、明日一番に並んで一番に聞いてもらうので…っ!なので、聞いて上げてください!」
その言葉を聞いた猛は瞳を緩ませ、なかなか見せることのない艶麗な笑いで一生徒の頭を優しくなでる。
「えらいね。うん、じゃあ、明日。待ってるね。早く来れなくても、なるべく早く相談聞くからね。」
「あ、あわ…わ、わ!はいぃ~っ!」
「それで、どうしたの?何があったか聞きますよ。とりあえず、いったんこれで涙を拭いてください。」
そう言って猛はハンカチを渚に差し出す。
「う、うんっ…グス…。」
ハンカチがびしょびしょになっていくのを静かに見守りながら、猛は渚が落ち着くのを待つ。
しばらくして落ち着き始めたころに、渚が口を開く。
「あのね。ぼく、さっきね、会計さまにあってきたんだ。」
「はぁ…。ええ。」
「会計さま、最近は転校生にばかりかまっていて、僕たち隊員の中にも不満を抱える子が出てきたから、少し、意見をお聞きしてもらおうと思って。」
「確かに、最近の彼は、大事な物を見失っているようですからね…。」
「うん。だから、以前のようにとは行かなくても、月に一度くらいはお茶会にも来てほしいと、お願いしたの。」
「うん。そうですね…。貴方たちも、寂しいですものね…。」
「うん…。だからそういったの。」
そしたらね…ーーーー
「は?お茶会…?……。…ああ、君たちの自己満足交流会ね。
行かないよ。そんな物。いつもいつも、僕の周りでマウント合戦初めてさ。おいしいお茶もまずくなっちゃうんだよね。今は輝樹(和師)とカフェに行くのが楽しいし。」
ーーーって、言われちゃって。
「顔も、ひどく怒ってらっしゃってて、怖くて…。ッグス…。でも、言われたことが意味わかんなくて、それで喧嘩しちゃったの…。」
「おやおや…。それは…。なんというか…。悲しかったですね…。」
「うん…。うん…。どうしたらよかったのかなぁ…?」
そういうと、渚はまた泣き出してしまう。
「ああ、なかないで…。つらかったね。」そう呟き猛は渚の肩を叩き優しく頭を撫でる。
ひとしきり撫でた後、思わし気な瞳で渚の涙をこぼし続ける丸い瞳を見つめる。
「でも、本当にどうしたほうがいいとか、聞きたい?その、今の君たちには、ひどい話になってしまうかもしれないけれど…。」
「うん…。いいよ…。聞きたい。会計さまに許してほしい、一緒にまたお茶会をしたいの。」
その言葉を聞いた猛は、渚の瞳を見つめて話し始める。
「あのね、会計さまに、あらかじめ許可はもらってるから言うけどね?君たちのお茶会の様子、見たことあるし、話にも聞いたよ。」
「え。うん…。何がダメだったのかな…。」
「うん。まずね、君たちは自分の話が多すぎることがあるよ。お茶会で、少しでも、会計さまと仲良くなりたいもんね。でも、そのやりかただと、会計さまも、疲れちゃうかもしれないなと、僕は思いますよ。」
その猛の言葉に、渚も少し、ムッとする。
「じゃあ、どうやって仲良くなるのさ…。」
「自分たちのいいところを話すだけじゃなくて、相手のいいところを話すことでも、だいぶ仲良くなれるんじゃないかと思いますよ。」
そも話を聞いても、渚はむすっとしている。「…ふーん?」といったきり、そっぽを向いてしまう。
「あのね、渚君。会計さま、しんどそうでしたよ。」
猛のその言葉にむすっとしたまま、視線を向ける。
「君たちと仲良くなりたいけど、自慢話ばかり聞かされて、しんどい。って」言ってましたよ。」
「…。…もういい。」
最後の言葉を聞いたとたんに、ぶきっちょづらで、立ち上がると、扉へとつかつかと向かう。
つか。と扉の前で立ち止まる渚。
「…。ぁりがと…。」と小声で話すと扉から出ていってしまう。
「あ、えと、猛君、僕からも、ありがとうございます!あの、僕、隊長様のところに行ってきますね!では!」
一緒に話を聞いていた生徒も、慌てたように先に出ていった渚を追いかける。
その様子を猛は静かに頬やましく見ているのだった。